吉田　カルチャーパーク		医　学　館
心理精神編		最終更新日２００９年０８月１５日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　情報量が多くなり分割しました　２００９年08月１５日

　　　続きは第2部へ

１年目　平成１５（２００３）年

1　見舞いを受けて嫌だったこと
　●興味の無い本は読めない。厚みと文字数の多いのもだめ。癌の本も嫌。
　　むしろ、週刊誌の方が、有り難かった。詩や写真のメルヘンチック物が良かった。
　●食事中の面会は食べるのが苦しいだけに、食事をやめてしまった。
　●花の類は場所をとってだめ。
　●術後は３０分以上の面会は疲れた。
　●「誰かが面会に来る」と言われると、期待してしまうので、時間をはっきりさせ
　　るか、予定を告げないほうが良い。
　●身内でも、病人の希望と思惑が外れるので、要求を明確にメモ取ってもらう。

2　最初の夢
　　深夜、山の頂上に寝ていると、馬や羊の石像が呪文を唱えながら、周りをのその
　そ回っている。山から見おろすと、人間達の明かりが見える。飛行機の上から、街
　の灯を見ているように。石像の妖怪達に「もっと人間どもを怯えさせろ、真面目に
　やれ！」と言うと石像が猛烈な速さで回りだした。
　　次は自分が地面に隠れていて、頭の上の覆いを持ち上げると、夜空に、大きな
　蛍の様な白い光が舞っていた。逃げるように歩くと、明るくなって、大勢の人がバ
　スに乗り込もうと、押し合いしている。この最終便をのがすと帰れないと言われ無理
　やり乗り込んで眼が覚めた。
　手術後２日以内の夢だったと思う。臨死体験とわ思わないが・・？

３　介護疲れ（平成１５年８月１０日の日記）
　　深夜１時半頃、気持ち悪くなって、黒砂糖をかじる。２時半頃再度気持ち悪くな
　り、１階の座椅子で寝る。朝方６時半頃台所の音がしたので、２階のベットで寝る。
　　９時半頃朝食。気持ち悪くて、すぐには食べられない。「気持ち悪いからとか、
　食べられないとか言わずに食べなさい。何もしないで文句ばかりいってないで」と
　妻が怒る。そう言われても、食べられない。今更自分で食事も作りたくない。だん
　だん介護者に、疲れが出てきて、愚痴が出る。やがては面倒臭くなって、虐待
　に繋がるのだろうなと思う。食事の後、デザートが出るのが当たり前でも、時間を
　置かなければ胃の全摘者には苦行になる。健常者には判らない。

4　１年以内に死んだら損だ（平成１５年８月２６日）
　　明け方から、気持ちが悪く、血糖値が下がっているのかと思い、黒砂糖を３度も
　かじる。手術後３ヶ月経過。腹筋が引きつれて痛く、体が伸びない。抗癌剤のせい
　か、運動不足なのか、貧血、立ちくらみがひどい。立ち上がってしばらく真っ暗に
　感じることもある。夕食は鰻。毎日病気で何もしない亭主の賄いも嫌になるだろ
　う。白焼き鰻はそのまま食膳に並べればよい。小骨、皮をよけて食べたが、やは
　りつかえてしまった。吐き出しても簡単にはすっきりしない。唾液がどくどく出てく
　る。何度も嘔吐したので、血も混じる。腸の中の物を吐き出すのは難しい。３０分
　以上トイレで嘔吐を繰り返す。今までで一番苦しいかな？と思いつつ、最後はど
　うとでもなれと思って嘔吐したら、腸に収まったはずの鰻が粥状になって出てす
　っきりした。妻に「結局３ヶ月は生き延びた」と言うと「先生が生存率の説明しなか
　った？」と返事が返って来た。あれだけ痛い思いしたのだから、１年以内に死ん
　では損だと思う。
５　俺は危ないのかなあ（平成１５年９月７日）
　　町内の滝神社のお祭り。裏方賄いの食事が食べられない。
　会う人毎に「大丈夫か？」と心配、同情されると「俺は危ないのかなあ」と思う。
　　子供神輿の巡行写真を撮り歩いていると工務店のＫさんに会う。「お久しぶ
　り、元気？」と肩を抱こうとしたら「俺こっち側駄目なんだ」右側、大腸ポリープで
　１５センチ腸を取ったとのこと。さらに脳腫瘍か何かで、去年８ヶ月入院していた。
　右手の麻痺は有るけど、言葉は明瞭に話せる。　「お互いそう言う年になったと
　言う事よ。健康第一、頑張って長生きしようぜ」１歳年上のＫさんに言われて、
　実感が湧いた。同年代で、お祭り世話好き兄弟の弟は今年癌で亡くなり、兄は
　入院中。お神輿や太鼓の準備、後片付けの指示する私も、長老に組み込まれ
　単なる病気の爺と知る。

６　叔父さんの葬儀（平成１５年９月１２日〜）
　　都立府中病院の定期検診出がけに兄から電話。母方の叔父さんの訃報。退院
　後良く歩けないので車でお見舞いに行ったときは、元気で手術快復を喜んでくれ
　たのに。はかない。数年闘病中だった叔父さん、色々闘病中の姉、私の３人は、
　自分が先に逝きたくない。誰かの葬式を見送ってからにしたいと思っただろう。
　不謹慎だけど、心のどこかに安堵感があった。これで何時死んでも諦めがつくと
　思った。病院では血液検査結果も異常が無いと言われたが腫瘍マーカーが手
　術前で陰性だったから、あまり安心出来ない。
　　９月１５日　叔父さんのお通夜に、妻、子供を乗せて行く。礼服もダブダブ。
　痩せた分だけ、足がしびれず正座ができた。先日叔母さんにお悔やみの電話した
　時は、声が詰まってしまったが、今日は諦めがあって平静に焼香した。
　電車で駆けつけた娘も乗せ、一家で帰る。運転しながら、妻や子供達に距離を感じた。
　自分は叔父さんの世界に足を入れている。自分が死んだら、彼らも今日みたいな
　葬儀をするのだろうな。いくつも葬儀に焼香したけどそれ程深刻に考えなかった。
　　生者必滅は自然のことわりだから。今は消滅側に居る。

７　同級生が追いぬいて逝った。（平成１５年９月２３日）
　　甲府から駆けつけた友を西国分寺で乗せ、村山市の長円寺へ。
　徳川旗本の菩提寺。駐車場に彼岸花が淋しく咲いていた。工業高校は専科で
　３年間クラスが一緒。毎年クラス会が有るが常連が出席、葬儀には多勢集まる。
　「この若さで肺炎で死ぬか？」臨時クラス会の皆さん動揺する。
　　既に４人が他界。「次ぎは俺か」と思っていたら、私の横を追いぬいて逝った
　彼が「三億円の犯人とチクッタのはお前だろう」と言った。そんな会話はもう出来ない。
　「首まで細く痩せたけど」と皆に心配された。翌日の告別式は平日で会葬者は少
　ない。何時もは嫌いな、納棺の献花。私の代わりに逝ったような気がして、２回顔
　の周りに花を添えた。肺炎で急死のせいか、痩せていない面立ちに
　「お前、まだ呼ばないでくれ」と頼んだ。古風な霊柩車のクラクション吹鳴。少ない
　会葬者が合掌。地元で、故人と中学も一緒の高校の同級生が
　「じゃあな、１１月のクラス会で会うベえ」と言って、式場で別れた。

８　薬害スパイラル（平成１５年１０月２０日　ホームページへのメール投稿から）
　　小生今年５月に噴門部癌で胃の全摘出しました。浸潤部の食道を５センチ切除。
　当然のごとく脾臓、胆嚢、周囲のリンパ５０個摘出されたようです。（患者はそれ
　を信じるしかない）「胃の全摘出に抗癌剤も無意味と言う読売新聞の記事や、アメ
　リカ、イギリスの学会説がありますが、抗癌剤どうしますか？」絶対的効果が有る
　訳で無い。リンパ５０個の病理検査結果７個の転移がみとめられる。３個なら問題
　なし。１０個なら問題あり。貴方の場合なんとも言えない。自分に置き換えたら、
　さらに体力が落ちる抗癌剤はやらない。と良心的な先生の意見。
　　それでも周りの人の意見でユーエフティ顆粒（錠剤が飲み込みにくい）を服用し
　て２か月。薬の効果が出て免疫低下して、帯状疱疹を発症。皮膚科は当然特効薬
　ゾビラックス（アシクロビル）を投与。
　　７日後疱疹が回復に向かいゾビラックス終了。この間皮膚科の先生にいって外科
　の先生と抗癌剤の服用可否を検討してもらい、抗癌剤休み。ゾビラックス投与９日
　頃から、意識が途切れるような感じ。せん妄、神経障害が現れた。これは風邪の時。
　ヒドロリン酸コデインが効き過ぎた症状と同じ。２〜３日排尿もおかしかったので、
　腎臓にも影響があったのかもしれない。
　　胃癌→全摘出→体力低下→抗癌剤→免疫低下→帯状疱疹→抗ウイルス剤
　→意識障害→腎機能不調　　とどんどん悪循環
　　これを薬害スパイラルと私は命名します。

９　人生の意味（平成１５年１１月１２日）
　　１５日付けで退社の手続きをする。社会保険事務所に自分で届けを出した。
　入院中見舞いで貸してくれた本は興味が無くあまり読まなかった。読んだ中で
　も「廃用身」久坂部羊　著　幻冬舎　は臓器をいくつも摘出した身には苛酷な読
　み物だった。社長に返却すると、新たに３冊貸してくれた。その中の１冊の
　「馬鹿の壁」養老孟子著の１節が響いた。人生の意味　Ｖ．Ｅフランクルの考え
　「其の人が運命を知った上で取る態度によって、周囲の他人が力づけられる」
　　Ｖ．Ｅフランクルは短時間の極限状態を言ってるのかも知れない。残された時間
　に何をするか、考えていた時期であったので気になった。
　　取引先の社長に癌の発症から手術、退院の話しをした。癌の告知を重大事に考
　えている人には、あっけらかんとした私の説明が不思議らしい。「大変な目に会い
　ながら、こんなに朗らかな人は見たこと無い」と言った。これも「人生の意味」な
　のかも知れない。「あの人は死ぬまで新しい事に挑戦していた。」かって２０年
　前の上司は年配者には珍しくコンピューターに挑戦していた。今度は私が、周囲を
　力づける番なのだろう。

１０　サラリーマン現役引退（平成１５年１１月２９日）
　　朝からあいにくと小雨。いぶかしげな妻にパートの休みを取らせ出かける。
　例によって、朝飯を家で食べると時間が掛かるので、コンビニで買ったサンド
　イッチとサラダ海苔巻を運転しながら食べる。　関越花園、長瀞を抜け、鬼石
　の桜山へ。小雨でも３００円の入山料を徴収された。
　　南斜面の冬桜は散っていたが、北斜面は咲いていた。カエデの赤、ぶなの黄
　色は、雨にぬれて美しい。遠くの秩父の山肌に沸き立つ雲は、ゆるやかに動く
　墨絵のようだ。皆野の満願の湯へ。けんちん汁うどんをゆっくりたべる。その
　後露天風呂に入る。雨に洗われた紅葉や川面に流れ込む滝が美しい。胃腸と筋
　肉痛に効くらしい。寒そうな長瀞の川くだりの船を見下ろし、農産物直売所で
　大根と焼酎つけの柿を買う。
　　帰途、電話では嫌がってた姉の家に寄る。家の前に姉が立ってる。肉親の神
　秘で、弟が着くのが判ったのかと思ったら、他の車と間違えてたらしい。３ヶ月
　前より元気になった状態を見てもらった。姉は今まで数度手術しているのに、俺
　よりも元気。どっちが先に死ぬか、うかうか出来ない。
　　夕食は飯能市のおしゃれなレストランで。看板売りこみ営業をした店。コース
　ディナーが出る間に「俺が読むと泣けてくると困るから自分で読んでよ」と封
　筒を渡す。いきなりご祝儀袋を開けようとするの。手紙を読むように催促する。
　　「　○子さんへ。１１月を持って、サラリーマン現役引退しました。４４年間で
　都合９回転職しました。この間退職金は子供の学資に変わりました。最後は
　大病して尻つぼみになりましたが、ここまでやって来れたのは、貴方のおかげ
　と感謝します。有難う　　　　平成１５年１１月２９日　　昌克」
　　「この先は無いのね。有難う」そう言って妻はご祝儀袋を開けた。裏の金額
　欄には４万円に　おしまいとルビを振ってある。「退職金２０万円から今年度
　分市民税を引いた残金を半分にした」と説明。
　　今まで沢山の先輩の定年を祝ってきた。横浜の叔父さんは箱根の温泉で、兄
　はメキシコレストランで還暦祝いと兼ねて。私は職場の花束も拍手も無いけど、
　企業戦士が戦死したのだから、こんな形で引退するのも仕方ないかなと納得した。

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